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田中琴葉や喜多見柚が好き

思春期ビターチェンジを読んだ

まさかこの場にアイマスじゃない話を書くことになるとは思わなかった…。ほとんど匿名の気分でありながらネット人格と蜘蛛の糸ほどの繋がりを残しているというので、このブログもなかなか距離感が便利なのである。

先日ネットの海で「思春期ビターチェンジ」という作品にうっかりうっかり激突してしまい、思わず電子版で全巻購入してしまった*1。即売会にはちょくちょく参加していたとはいえ商業漫画を購入したことはこれまでなかったはずだが*2、ラインを越えさせられてしまったという思いである。ついでにboothにも手を出してしまった(これまた実質的に初めてである)。これまでは商業漫画なんていう広大過ぎる海に手漕ぎボートで踏み出してまともな買い物ができようものかという尻込みがあったものだが、読了してみるとこの世の創作物すべてを知悉していたとしてもやはりこの作品を手に取っていただろうと思う*3。今シャレにならないほど逼迫している状況にあるが、どうしてもいろいろ語りたくなってしまったので書いてしまう。

テーマ

自分なりにストーリーを超ざっくり要約してみると。がさつだが面倒見がよく考えるより行動する派の佑太と淋しさを抱えた一匹狼の優等生結依。ふたりは小学4年生のある日心が入れ替わってしまう。元に戻りたいという二人の願いむなしく、お互いの身体を預かり合ったまま過ぎてゆく思春期の葛藤と成長の物語…という感じ。

この作品を大きく特徴づけているのはやはり長期戦というところ。入れ替わりによる苦悩といえば、肉体の違いや周囲への対応などとにかく即座に対応が必要な問題が質量ともに膨大だが、かくも長期にわたってくると人生という視点が重低音のように響いてくる。そしてここが入れ替わりのいやらしいところで、そもそもの原因が謎パワーであるゆえに一縷の望みを持たされ続けるのである。しかも触ろうと思えば触れる位置に"正解"がある状態で。だから単純に考えるべき人生が二人分になるのもそうだし、さらにそれに答えを出させない強い力が働くことになる。一巻ラストにもある「二人でがんばっていこう」という台詞はそれを強く感じさせるもので、思えばそれが購入を決断させる最大の要因だった気がする。他にもユウタが橘に心情を吐露する場面にもこの残酷さがよく表れている。また、特にweb版になるが「ずっとふたりで」のユウタのモノローグもかなり好きなところで、人生を選び取るという喪失が大きなカタルシスを与えてくれるシーンだった。

エンディング

商業版のエンディングは明るいものとなっていて、そりゃあ媒体というものを考えればむべなるかなである。しかしながら、その結末に至るために失ったものというのもしっかりあって、そのあたりのバランスが素晴らしいなあと感じる。特に結依にとって女の子の身体って絶対に「こんな身体」じゃないわけで…。人生の中でのタイミング的にも、オシャレとか、恋…はこの時点だと文脈に乗りきらないかもしれないけど、そういう青春時代がまだギリギリ間に合うかもというところで手のひらの上に乗ったはずなのに、それを握りしめることなく手を傾ける。この状況がすべて自分の行動によるものという点も含めて、あまりにも胸を締め付けられる決断である。

エピローグについてはweb版のものも是非言及したい。こちらはなかなかまあまあ殺傷力が研ぎ澄まされた話である。とはいえ、初読時はどういう方向で判断解釈していいものかという困惑の方が強かった。読解下手な私は裏話の誘惑に負けboothへと走ることになったわけだが、きちんと一貫した説明があってとてもよかったと思った(答えを与えられてこう思ってしまうことに関しては情けなさもあるが)。見直してみるとなるほどヒントとなる描写や伏線が色々見つかるのでこっち方向で考えることまではできたかもしれないが、自分だけの判断では物語を楽しめるほどの確信は持てなかっただろうからやはり裏話を読めてよかったと思う。でもそういうことだとつまり、あの発言はそういうことでお前お前お前。ねえどんな気持ち!!こういった悲しい話は大好物です。裏話本は他にも恋愛周りの設定が非常に納得を与えてくれるもので、購入してよかったと思えた。

キャラクター

ユウタはあのノリでいて(失礼)一途な献身性を見せるのがずるい。また、全編通してみて他者の心情に目を向ける場面が想像以上に多い。そのせいもあって自分の気持ちが割を食ってしまう局面もあるが、そうした自己犠牲の側面にはついつい魅力を感じてしまう。web版はホンマお前なあ!!あと、シンプルにビジュアルがかわいいので加点が入っている。単純な人間なので…。

ユイは上で「一匹狼の優等生」と書いたが、優等生にツンの要素が掛け合わさる塩梅が絶妙だった。改めてユウタと比較すると、性格に難があるとまで表現するとかわいそうだが関心のベクトルが自己に向きがちなのが印象的。結果として元の身体に戻りたいという気持ちがこちらにも強く伝わってきて、いじらしさというか悲劇性を感じさせるというつくり。自分の身体に対する絶対的信頼はある種責任を負わない外から見つめる立場だからこそだったりするのかもとか考えだすと、そこにまで業を感じてしまう。

気になったとか

サラッとではあるがいくつか。まず、一周目は後半の恋愛関係の動きが一部追いきれず大変だった。とはいえきちんと読んでいくときっかけや出来事はかなり丁寧に描写されていたことに気付く。強いて言えば終盤の一馬の動き方かなという感じだが、まあ元々人間出来過ぎていたくらいであったし恋愛の報連相などしなくてナンボなのかもしれない(?)。また、何人かのキャラクターについてはもう少し話を見たいと思った。ひかるはゲーム的に言えばエピソードが一個解放されなかったみたいな印象を受ける。小泉さんもちょっと惜しいと思ってしまった。元々「入れ替わりを隠す」というのは(他作品でも少なからず)ストーリーの前提となっている側面もあるが、そこに切り込んでいけるポテンシャルを感じたキャラクターだった。秘密の共有というのも美味しい役どころであるし。

それ以外の好きなシーンとか
  • 橘の「ありがとう」。キスはまあよくなかったけど、ユウタにとって最終的に橘とこういう関係になれたことは結依の身体で過ごした中でも大きかったろうなあと。
  • ユウタの恋心の自覚。同時にユイの矢印が自分に向いていないこともはっきりとさせるが、非情にも彼の恋模様の把握はけっこう正確で…。ここから7巻以降に向けてのユウタの報われなさは上質で特大で大好物。
  • 7巻表紙。自分の表現ではないのだが「相互不理解の話」というのがかなり自分の癖に入っている。ユイとユウタで相手の理解に非対称性があるのが素晴らしい。報告会が途切れるのも切なさポイントで、入れ替わりという繋がりをもってさえもひととひとが分かり合うには遠い。
  • ユイと結依の両親の関係まわりもかなりよい。良かったねというよりは届かない距離ができてしまった悲しさを湛えている方向で。それぞれの親に隠すのと明かすの、親不孝でないのはどちらなんだろうか。
  • 入学式でのユウタの喧嘩シーン(2回)。ギャップが楽しい。高校のは結依の身体を傷付けられないというのも含まれてるのが芸コマという感じ。

*1:思えば2ヶ月前には「ヒナちゃんチェンジ」との衝突事故でジャンプ+をインストールする羽目になっていた。おれはぜったいにさからえない

*2:ワールドトリガー」を知ってレンタル屋に駆け込んだことはあった

*3:こういう幸運な出会いをすることは時々あって、pixivで艦これ作品を漁っていた時の「骨 のちのこと」とかもそうである